To-Beプロセス構築を成功に導く!トリガーイベントで見極める“必須”のAs-Is業務

前回までの記事「要求ずらし」「To-Beヒアリング」では、現行業務に引きずられてしまう問題を解消するためのアプローチについて解説しました。今回は、その中で概要を示したトリガーイベントを軸に、As-Is業務の必須プロセスをどのように抽出し、Fit to Standard(FTS)の観点でTo-Beプロセスを構築すればよいのかを、より踏み込んでご紹介します。

なぜ“トリガーイベント”に着目するのか

トリガーイベントアプローチとは、「どのタイミングで、何をきっかけに、どんな情報の処理が始まるか」という業務のトリガーとなる情報の起点に絞って業務フロー(正確には情報フロー)を整理する考え方です。従来のシステム画面や慣習的な処理にとらわれずに、本質的に必要な業務だけをゼロベースで捉え直せるため、単に抜け漏れを防ぐだけでなく、不要なプロセスを排除したスリムなフローを構築しやすいという大きなメリットがあります。

トリガーイベントは3つの起点から成る

トリガーイベントには大きく分けて、外部イベント、内部イベント、定期イベントの3種類があります。

  • 外部イベント:
    例えば、顧客から注文が入る、仕入先から納品が届くといったケースで、注文書や納品書などの情報を受け取ったタイミングがきっかけとなります。どの部署がどう動き出すかを明確にすることが目的です。
  • 内部イベント:
    製造現場で不良が発生したり、在庫が一定の閾値を下回ったりするなど、社内で発生するイベントを指します。こうした問題やトリガー(閾値)をどのように検知し、誰がどのように判断・対応するかを可視化することで、業務の問題発見や効率化につなげることができます。
  • 定期イベント:
    月末の棚卸や四半期の原価計算、毎日の製造実績報告に伴うバッチ処理など、決まったタイミングで実行される業務を指します。こうした処理は、必要な人員やデータを把握しておくことで、将来的には内部/外部イベントとして再整理し、リアルタイム運用への移行も視野に入れることができます。

ヒアリングの進め方

ERP導入プロジェクトでは、トリガーイベントを軸にして必要な作業や情報を網羅的に洗い出し、As-Isのうち本当に必要なプロセスを見極めながら、ERP標準機能に合わせたTo-Beへ落とし込んでいきます。以下のステップを押さえておくと、前回ご紹介した「To-Beヒアリング」とも連動しやすく、抜け漏れを防ぎながらスムーズにヒアリングを進めることができます。

  1. アクターの特定
    まずアクターの特定から始めます。外部アクターには顧客や仕入先などの取引先だけでなく、輸送業者や金融機関、監査法人も含まれますし、政府からの規制や税制要件、災害情報なども外部アクターとして扱います。内部アクターには自社内の部署や担当者、システムアラート、などが該当しますが、どの部門・役職がどんな情報を受け取ったときに業務を開始するのかを洗い出すことが重要です。
  2. イベントの棚卸
    イベントの棚卸では、どのようなトリガーイベントが何の作業を引き起こすのかを、Create(新規作成)、Read(読み取り)、Update(更新)、Delete(削除)の四つの切り口で洗い出します。新たな注文や取引先登録などのCreateイベントや、納期確認のReadイベント、納期変更のUpdateイベントやキャンセルのDeleteイベントなど、多彩なケースをリストアップしていくことで、トリガーイベントの抜け漏れを防ぎます。
  3. 取引パターンとの整合性
    取引パターンとトリガーイベントの整合性を保つことも重要です。モノの流れにおける情報の起点(トリガーイベント)が、例外パターンを含めた取引パターンと矛盾なく連動しているかを検証することで、後工程での手戻りや不整合のリスクを抑えることができます。
    例えば、顧客からの納入指示(外部イベントトリガー)と倉庫からの出荷(取引パターン)、あるいはタンク原料の消費(内部イベントトリガー)とパイプラインによる納入(取引パターン)といったプロセスが、業務上・データ上の双方で確実に紐づいていることを確認します。
    こうした検証は、トリガーイベントの正確な定義とTo-Beベースのマスターデータ設計の両立に向けた、重要なステップとなります。
  4. ERPのトランザクション(オーダー)への紐付け
    棚卸したイベントを、ERPのオーダー(販売、購買、製造など)と結び付ける際には、具体的にどのタイミングでどのオーダーが作成・更新・完了するのかをセットで管理します。
    例えば、顧客からの注文という外部イベントが発生すれば販売オーダーを起票し、在庫が閾値を下回った場合は購買オーダーを立て、不良品が発生したときには製造オーダーの再指示や品質検査オーダーを発行するといった形で、イベントをトリガーにした処理を一貫して整理するのです。
  5. トランザクションステータスの更新トリガー
    ERPで扱うオーダー(販売、購買、製造など)が確定すると、それに対応するトランザクションのステータス(例えば「受注登録済」「在庫引当済」「出荷待ち」など)も自ずと定まります。これらのステータスは業務プロセスの進度を表す指標となるため、ステータス遷移を基準にビジネスプロセスを設計すれば、ERPの標準機能(Fit to Standard)に即したフローを構築しやすくなります。これにより、不要なカスタマイズを抑えつつ、To-Beプロセスの精度も高められます。
    例えば、「受注登録済」から「出荷完了」へ一気にステータスが進む場合、その更新トリガーが何かを明確にしておけば、システム設計や運用設計との整合性を保ちやすくなります。
  6. 業務フローへの組み込み
    業務フローへの組み込みでは、ここまでに確認したイベントやトランザクション、ステータスの情報を、実際の業務フローへ統合していきます。まず鳥瞰図(全体フロー)を俯瞰したうえで、詳細フローに落とし込む際には、各フローの開始点を「このイベントが起点」として定義するのがおすすめです。こうすることで、最初のトリガーから最終的な完了状態までを一貫して追うことができ、可視化したフローチャートをもとに担当者同士で共通認識を持ちやすくなります。こうした整理が進めば、業務ヒアリングの際にも「どのイベントで、誰が、何をすべきか」が把握しやすくなり、ヒアリング結果を具体的なシステム要件へつなげる作業がスムーズに行えるようになるでしょう。
  7. To-Beを固めるための最終ステップ
    最後に、トリガーイベントやトランザクションステータスを手がかりに、As-Is業務の中で本当に残すべき要素を見極めながら、ERPの標準機能を軸にしたTo-Beプロセスへと落とし込んでいきます。
    例えば、「コスト集計の前に販売価格を決めていないか」「事務所で一日一回まとめている製造作業報告を、現場でリアルタイムに収集できないか」といった具体的な改善の視点を加えることで、より最適化された業務フローが見えてくるはずです。

まとめ

トリガーイベントを軸に業務を見直す考え方は、従来のシステムや部門ごとの慣行に縛られず、「どんな情報が発生したタイミングで誰が動き出すのか」という起点を捉え直すところから始まります。これにより、無意識のうちに延々と継続してきたプロセスや、必須だと信じ込んでいた手続きが本当に必要なのかを見極めやすくなり、不要な工程の削減やシンプルなTo-Beプロセスの実現につながります。

特に、ERP標準機能(Fit to Standard)を活用する際は、既存業務をそのまま当てはめようとするとカスタマイズの泥沼にはまりがちです。しかし、どのトリガーでデータが生成・更新されるのかが明確になれば、必要最低限の機能で最大限の効果を出せる可能性に気付けるでしょう。こうした気づきは、結果的に運用コストや将来的なアップデートの負担を軽減し、組織全体に新たな変革の余地をもたらします。

この活動を通じて得られる最大の成果は、ユーザー自身の“ものの見方”が変わり、システム導入や業務改革を受け身でなく主体的に進められるようになる点にあります。日常業務の各シーンで「どのデータが起点となっているのか」「この処理は本当に必要なのか」と問い直せるようになるだけで、企業の競争力やイノベーションの幅が大きく広がっていくはずです。