SaaS ERPをFit to Standard で導入するための外注管理【基礎編】ー 分類・戦略・支給スキームを体系整理

ERP導入プロジェクトにおいて、外注管理のモデリングは難易度が高いプロセスの一つでしょう。なぜならば、外注管理は、製造と購買、そして物流の要素が複雑に組み合わさり、さらには、支給品の在庫責任や原価計算、収益認識や買戻義務、渡外注(一次外注品を二次外注へ送るケース)といった処理が連鎖して発生するためです。

外注管理を整理しやすいよう、本稿は内容を二部構成に分けています。

  • 基礎編では、外注の分類と戦略、支給品手配と在庫管理、渡外注やクロスボーダー外注の要点など、外注管理の全体像を体系的に整理します。
  • 応用編では、Fit to Standard(FTS)の視点から
    1. 有償支給を無償支給へ切り替える実務ステップ
    2. 完成品受入の都度に支給品消費を報告させる仕組み(リアルタイム在庫精度向上策)
      の二つの改善テーマを取り上げ、具体的な導入手順とERP設定ポイントを解説します。
外注管理の目的と難しさ

外注管理の目的は大きく三つに集約できます。第一に、自社で製造できない品目を外部に委託すること。第二に、需要ピーク時のキャパシティ不足を補完すること。第三に、外注を活用してコスト競争力を高めることです。もっとも、そのメリットを享受するためには製造に必要な支給品(P‑BoM)の取り扱いが欠かせず、これが外注管理を格段に複雑にしています。支給品が絡むため、単なる仕入管理では済まず、支給品の手配・在庫管理、製造品との相殺処理、収益認識基準に準拠した会計仕訳など、付随業務が一気に増加します。このため ERP導入プロジェクトでは、これらを前提にした部門横断でのヒアリング、設定作業、実機検証が必要となります。

外注管理の確認ポイント

以下に、外注形態の分類、発注比率の考え方、支給スキーム、買戻義務など ERP設計に影響する主要論点を一覧します。

外注の種類:どの工程を手配するか
外注形態を議論するとき、ERPで最も影響が大きいのは「外注前後で品目番号(品番)が変わるか/変わらないか」です。品番が変われば品目マスタやBoMを分けて管理し、発注は品目単位の購買オーダになります。一方、品番が変わらない場合は製造オーダの工程だけを外注扱いにし、原価や進度を工程レベルで計上します。そこで以下のリストでは品番の変化有無を軸に分類を切り分け、ERP設計で迷いやすい「中間品外注」と「工程外注」をあえて分離して整理しています。

  1. 委託製造(最終製品外注)
    • 定義(品番変化・工程範囲)
      最終製品に至るまですべての工程を外部で実施。工程の前後で品番が変わり、受入時は完成品として登録
    • 外注の範囲
      完成品/最終製品
    • 具体例
      EMS企業へスマートフォンを丸ごと委託製造するケース
  2. 中間品外注(品目レベルの外注)
    • 定義(品番変化・工程範囲)
      完成品手前の半製品・中間品を品目単位で外注。自社では後続工程を続行。工程前後で品番が変わる
    • 外注の範囲
      半製品/中間品
    • 具体例
      鋳造工場へシリンダーブロックの荒加工品を発注し、自社で仕上げ加工
  3. 社外工程外注(工程レベルの加工外注)
    • 定義(品番変化・工程範囲)
      製造オーダの特定工程だけを外注。品番は前後で変わらない(同じ仕掛品)
    • 外注の範囲
      作業工程のみ
    • 具体例
      自社ラインで組立 → 熱処理のみ外注 → 再び自社ラインで検査
  4. 社内工程外注(工場内に外注作業者が常駐)
    • 定義(品番変化・工程範囲)
      自社工場の区画に外注ラインを設置し、人員だけ外部会社が担当。品番は変わらない
    • 外注の範囲
      自社工場内で一部を外注
    • 具体例
      クリーンルーム内で外注オペレータが実装機を操作
  5. 検査外注
    • 定義(品番変化・工程範囲)
      製品または仕掛品を第三者へ送り品質検査・分析のみ委託。品番は変わらない
    • 外注の範囲
      作業工程のみ
    • 具体例
      X線検査やRoHS分析を専門ラボへ依頼
  6. 試作・開発外注
    • 定義(品番変化・工程範囲)
      図面が流動的な段階の試作品や治工具を外部で製作。設計変更が頻繁。品番は試作品番号等で区分
    • 外注の範囲
      半製品/中間品
    • 具体例
      樹脂試作メーカーで 3D-プリント試作品を作成
  7. 梱包・物流外注
    • 定義(品番変化・工程範囲)
      製造後の包装・ラベリング・出荷準備のみ外注。品番は完成品のまま
    • 外注の範囲
      作業工程のみ
    • 具体例
      3PL会社が最終検品と梱包を担当し、直送

外注戦略:自社と外注の比率をどう配分するか
外注比率を決める際には、「どのくらい自社で生産し、どのくらいを協力工場へ委託するか」を戦略的に設計する必要があります。単にコストやキャパシティだけでなく、技術の補完やサプライヤとの長期的なパートナーシップ維持など、目的は多岐にわたります。外注方針を4つのモデルに分類し、それぞれの狙いと典型的な活用場面を整理しています。以下に示す キャパシティ平準化型・コスト最適化型・技術補完型・パートナーシップ維持型 のいずれを採用するかで、品目の割り当てルールやERPの設定が大きく変わります。

  1. キャパシティ平準化型
    • 概要
      需要ピークや計画外の増産時だけ生産量の一部を外注へ振り替え、社内ラインの負荷を均一化します
    • 適用シーン/具体例
      繁忙期が明確な季節商品やキャンペーン対応品など
  2. コスト最適化型
    • 概要
      労務費や設備償却費の低い地域・企業へ恒常的に委託し、社内は高付加価値工程や試作開発に集中します
    • 適用シーン/具体例
      ASEAN工場で基板実装を量産し、国内では高精度調整と検査だけを行うケース
  3. 技術補完型
    • 概要
      社内にない特殊設備・ノウハウを持つサプライヤへ工程を固定委託し、製品ラインアップや技術ポートフォリオを拡充します
    • 適用シーン/具体例
      光学レンズの真空蒸着や医療部品の電解研磨など、高度な専用設備が必要な工程
  4. パートナーシップ維持型(協力工場共存型)
    • 概要
      自社ラインに余力がある場合でも、長期的な供給網維持やサプライヤ経営支援を目的に、一定比率を外注へ発注します
    • 適用シーン/具体例
      飲料メーカーが協力充填工場の稼働率を確保するため、オーバーフローがなくても毎月基準ロットを委託する
      将来の急増需要や災害リスクへの備え

支給品の種類:材料をどう手配し、どのように管理するか
外注工程で使用する材料を誰が負担し、資産をどこに計上するかは、ERPの在庫管理・会計処理を左右する重要な設計ポイントです。代表的な手配方法は「無償支給」「有償支給」「自給品」の3通り。それぞれ資産帰属、仕訳パターン、在庫精度の確保手段が大きく異なります。以下に各方式の特徴と運用上の留意点をまとめます。

  • 無償支給
    発注側(自社)が材料を無償で貸与し、外注先は加工だけを行います。
    保管場所は外注先でも資産は自社に帰属します。したがって支給数量・消費量・残高を正確に突き合わせる仕組みが必須です。理想は外注先がロットごとに消費実績を入力し、日次で帳簿と現物を照合する運用ですが、実際にはメール連絡や手書き帳票が残り、マニュアル管理になりがちです。そのため多くの現場では製造完了時にバックフラッシュ(みなし消費)を行い、月末棚卸しで差異を調整する方式が採られています。
  • 有償支給
    自社が材料を外注先に一旦販売し、その材料で加工した製品を買い戻します。収益認識基準上、売上計上はできません。
    譲渡時点では棚卸資産をいったん落としますが、完成品受入までは自社がリスクを負うため管理台帳が別建てになりやすく、棚卸しが煩雑です。さらに買戻義務ありの場合は連結決算で資産復元仕訳が必要となり、実務負荷が増えます。早期決済や代金相殺は下請法違反リスクがあるため、ディスカウントのない同日決済をルール化するのが安全です。
  • 自給品
    外注先が材料を市場から自ら調達します。価格と納期を外注契約に包含します。
    品質・規格のばらつきを防ぐには受入検査認定サプライヤ指定が必要です。また価格の透明性を保つために、外注先が材料費・人件費などの原価を開示し、そこに合意済みの利益を上乗せして価格を決める原価公開型契約を併用するケースもあります。

支給のトリガーとタイミング:いつ手配するか
外注先へ材料をいつ、どのような単位で渡すかは、ERP上の在庫精度と生産リードタイムを左右する重要な論点です。代表的な仕組みは「発注と同時に一括支給するPush方式」と「外注先が消費実績に応じて都度要求するPull方式」の2つ。それぞれメリットと注意点が大きく異なりますので、下表に概要をまとめます。

  • Push方式
    発注と同時に材料を一括支給します。原材料がそろった状態で加工に着手できるため、着工待ちのリスクは低減します。
    保管スペースを圧迫しやすく、外注先の倉庫費用や在庫差異が増える傾向があります。大量ロットを送る場合は、分納や出庫スケジュールの調整が不可欠です。
  • Pull方式
    外注業者が自社で支給品在庫を管理し、消費実績に応じて必要量を要求します。リアルタイムの在庫連携ができれば、保管スペースと在庫差異を最小化できます。
    在庫連携が遅れると材料欠品が発生しやすいため、EDIやポータルなどで即時に消費実績を登録できる仕組みが必要です。また、過少要求が続くと生産遅延のリスクが高まります。

買い戻し義務の有無:
支給品を有償で外注先へ譲渡する場合、自社が買い戻す義務を負っているかどうかが会計処理を大きく左右します。買い戻し義務の有無によって資産計上のタイミングや連結修正の要否が変わり、ERPでの仕訳設定や管理コストにも影響が及びます。下記の整理を元に、契約条項と会計フローをあらかじめ整合させておくことが重要です。

  • 買戻し義務あり(外注側が自由に販売できない)
    個別決算では資産を落としても、連結では復元仕訳が必要となり管理コストが増えます。
  • 買戻し義務なし
    譲渡と同時に資産を消滅させ、差額を負債で計上しますが、売上計上はできません。

設計変更時の支給品の扱い:
製品仕様が変わると、P-BoMの更新だけでなく、すでに外注先へ渡した支給品をどう処理するかが課題になります。設計前後で品番や数量が変わると、余剰在庫の回収・廃却や単価の再評価が必要になるため、無償支給か有償支給かで対応フローが大きく異なります。

  • 無償支給
    変更後に余剰となった材料を返却またはスクラップし、支給数量と返却数量の差異を確認します。
    差異が発生した場合は、在庫帳簿を数量ベースで調整し、スクラップ分は廃却処理。金額評価は棚卸資産としてそのまま残るため仕訳は最小限で済みます。
  • 有償支給
    変更前と後で単価や数量が変わる場合、過去の出庫分までさかのぼって金額調整が必要です。
    価格差を負債・棚卸資産で再計上し直すため、仕訳が増加します。買戻義務ありの場合は連結修正仕訳も伴います。

渡(わたり)外注:
一次外注で加工した半製品や残材を、そのまま二次外注へ横持ちして後工程を進める方法を渡外注と呼びます。材料の流れが“自社 → 一次外注 → 二次外注”と段階的になるため、契約とシステム設定を正しく切り分けておかないと、再委託禁止条項や在庫トレースで思わぬ抜け漏れが生じます。下記の整理を参考に、発注ロジックとERP設定を事前にそろえておきます。

  • 契約面
    発注者が二次外注へ直接発注し、一次外注の発注書では「納品先=二次外注」を指定すれば、一次外注が勝手に再委託した形にはならず、再委託禁止条項にも抵触しません。
  • システム面
    ERPでは
    ① 一次外注向け発注書に “納品場所=二次外注” を設定
    ② 二次外注用にも別の発注書を発行し、受入時に一次外注の支給品を自動消費させる設定にします。
    こうすることで物流と会計トランザクションが標準機能のまま整合します。

海外への外注(クロスボーダー外注):
海外の協力工場に支給品を送って加工後に製品を再輸入する場合は、通関・関税・輸送リスクを確認する必要があります。特に「無償支給か有償支給か」によって課税ベース、原価計上、紛失時の処理が大きく変わりますので、下記の通り整理しておきます。

  • 輸出通関
    無償支給:保税加工(一時輸出)扱い。関税ゼロ
    有償支給:材料を販売した形になるため CIF 価格で通関。売上ゼロ税率
  • 再輸入時の関税課税価格
    無償支給:加工賃(+付加価値)だけが課税対象
    有償支給:材料価格+加工賃の全額が課税対象
  • ERP原価計上
    無償支給:材料=在庫移動、加工賃+関税=製造原価加算
    有償支給:輸出売上・再輸入仕入を双方計上し、関税・消費税を全額原価配賦
  • 在庫の所在
    無償支給:発送時点から「イン-トランジット倉庫」へ移し、再輸入で国内倉庫へ着地
    有償支給:追加で売掛・買掛残高が動くため債権債務管理が増える
  • 紛失・差異リスク
    無償支給:輸送中・加工中の紛失も自社資産のまま。損失計上と保険請求が必要。課税ベースは加工賃のみなので関税追徴は軽微
    有償支給:紛失時は材料分まで保険請求対象だが、通関済みの場合は関税・消費税も負担済みとなり、追加入出金が発生しやすい
まとめ

本稿では、外注の分類と戦略、支給品手配と在庫管理、買戻義務や渡外注を含む会計・物流の要点まで外注管理の骨格を体系的に示しました。続編ではこの基礎を踏まえ、有償支給を無償支給へ切り替える具体ステップと完成品受入時に支給品消費を即時反映させる仕組みを取り上げます。実際の ERPのモデルへどう落とし込むかをご紹介しますので、ぜひ併せてご覧ください。