ERP知識シリーズ The品目マスター

最も多くのプログラムに関係するマスター、それは品目マスターです。それ故に、ERP導入で品目マスターは多くのことを検討しなければなりません。製造する品目、購入する品目、在庫管理するしない、完成品、中間品、連産品、副産物、副資材のコード化有無。これだけではありません。複数システムに跨る品目マスター、版数管理、顧客品目、仕入先品目、ファントム品、仮品番から終売品番。プロセス製造であれば、品質グレード、荷姿、容量、食品であれば、解凍前後や計量前後によって品目を分けるかどうかを検討するでしょう。そして、最も苦労するのが部門を横断しての品目コード定義の見直しではないでしょうか。

品目マスター再定義の必要性:
さて、品目マスターはどこから手をつければ良いのでしょうか。単に現行システムの品目マスターをそのまま移行するのでしょうか。いいえ、ことはそんなに単純ではありません。品目マスターの定義を誤ると、生産、購買、販売はもちろん、予算編成や分析にまで影響するのです。ERPを導入する前のシステムはほとんどの場合、販売管理システムや生産管理システムといった個別システムとなっているので、そのまま統合型システムであるERPに移行しては不整合が起こることの方が多いのです。

品目コード定義の基本:
では、品目マスターの定義はどの様に進めれば良いのでしょうか。

まず、品目コードの基本的な定義を学ぶことからはじめます。品目コードの定義は、3つの条件からなります。

一つ目は、ロットサイズが変わる工程で品目番号を採ることです。ロットサイズが変わるということは、その時にストック在庫が発生するので品目番号が必要になるのです。よく在庫があるからそれは品目番号が必要であるとか、工程ごとに原価を取るから品目番号が必要であるとかの議論がなされますが、それらは正しい選択とは言えません。重要なことは、その在庫や工程がストック在庫かフロー在庫かということです。フロー在庫であるならばERPで品目番号を採番する必要はありません。ERPは品目番号毎に製造オーダーを発行して、完成報告を計上しますので、フロー在庫まで品目番号を持つと大量のオーダーが発生し、副次的な影響を及ぼします。

二つ目は、製造品が次の工程で複数の製造品に使われるときです。ここでも品目番号を採ります。これは、BOMを構成する際に小品番を持ち、その単位で製造に投入されるため必要なのです。

最後が、工程間に物理的な距離がある場合です。どれくらいの距離かというと、トラックで輸送する様な場合です。これは、ERPではDRPで輸送期間を考慮し、拠点間で移動オーダーを必要とするためです。

ビジネス要求に基づく品目コードの再考:
これら基本的なことを学んだ上で次のステップに入ります。

一物複数品番:
次は、あるべき品目番号とは何かをビジネス要求の視点で考察することです。例えば、一物複数品番になっていると、分析が容易ではありません。原価についても、品目番号が違えば同じ金額でも複数回の登録やメンテナンスが必要になります。ビジネス要求に「一元化されたファクトデータで意思決定する」が挙げられているのであれば、一物複数番号はERP導入を機にトランスフォーメーションするべきです。ちなみに、一物複数品番が発生する原因は様々ありますが、特に多いのは設計段階で品目番号が採られる場合でしょう。設計段階で品目番号を意識していない場合は一つの品番で7つも8つも品目番号があった例もあります。設計や商品企画の立場が強い地位にあると、品目番号の変革は容易ではありません。この場合はトップダウンするやり方もありますが、それが難しい場合の施策は、設計段階は仮品番にしておいて、実務が始まる段階までに本品番にするというやり方です。これであれば、部門調整の敷居が数段下がりますので実現に近づくでしょう。

意味あり品番:
もう一つ例を挙げます。「意味あり品番」についてです。品目番号に意味を持たせて、運用で品目をわかりやすくしていることがあります。これは本当に多くの企業で採用されています。しかし、これもビジネス要求の観点から変えることになります。ビジネス要求に「ビジネス環境の変化に迅速に対応する」と挙げられているならば、意味あり品目番号は、その足枷になるでしょう。それは、意味の中にはその品目番号の利用する事業や製品グループなどが含まれているからです。ビジネス環境の変化が目まぐるしく起きる中、企業は変化に追随すべく組織再編や製品グループの刷新を行います。しかし、品目番号に先に述べたことが含まれていると、この変化に合わせて品目番号を変えることはほぼ不可能です。

まとめ:
冒頭で、「品目マスターは多くのことを検討しなければなりません。」と言っておきながら、結局品目コード定義の見直しの話に終始してしまいました。しかしながら、ERP導入で、「やりたいけどできない」の筆頭がこの品目コード定義の見直しだと経験から学んでいます。品目コードの見直しはERP導入の成功に直結する重要な課題です。標準化と一貫性を持たせ、将来のビジネスニーズに対応できる柔軟な設計を行うことが必要です。各部門の協力とプロジェクトメンバーへのトレーニングを通じて、スムーズな移行を実現し、全体の競争力を向上させましょう。