ERP知識シリーズ ユーザー定義フィールドの取扱説明書③ To-Beアプローチでビジネス価値を最大化する

前回(第二弾)までで、As-Is要求をERP標準プロセスで検証し不要な要求を淘汰することで、Fit to Standardを実現し、アドオン最小化を図る手法を紹介しました。しかし、このアプローチはあくまでも「現行項目や現行ルールへの執着を取り除く」ことが主眼でした。

第一弾で指摘した、ユーザー定義フィールド(UDF)を安易に追加することで「失敗の始まり」となる可能性は、実はこうした根本原因に目を向けず、表面的な要求へ対処し続けるところにあります。たかがユーザー定義フィールドと侮るなかれ、その一点が後々、大量の不要項目や複雑なカスタマイズへと拡大し、本来期待した業務改善とは逆方向へ組織を導いてしまうのです。

今回(第三弾)は、ここから一歩先に進み、To-Beアプローチへと移行することで、単なる要求回避や効率化の枠を超え、ビジネス価値の最大化を追求する方法論を解説します。ここで目指すのは、ERP導入を通じた業務改革(BPR:Business Process Reengineering)の本質的な実現です。

事象から目的へ、そして本質的な原因へ

As-Is要求では、現状の課題をそのまま裏返したような「対応策」に注目しがちです。たとえば、「在庫を確認しやすくしたい」「未来在庫を見えるようにしたい」という要求は、一見もっともらしく見えますが、実は現行業務の問題をそのまま解決しようとする対症療法的な要求にすぎません。

なぜ在庫を確認しやすくしたいのか? なぜ未来在庫を見たいのか? これらを深掘りすると、予約在庫ルールの不備によって、在庫があっても欠品扱いになってしまう問題が浮き彫りになります。つまり、表面的な要求(在庫見える化)よりも、真の原因は「予約在庫に関する業務ルールが適切に定義・統制されていない」という点にあります。

To-Beアプローチによる本質解決

To-Beアプローチでは、表面的な要求に安易に対応するのではなく、ERPシステムの標準機能やプロセスを基盤として、本質的な業務ルールの再定義を行います。たとえば、ERPが持つ在庫引当や確約機能(ATP/CTP)を前提に、予約在庫のルールを見直し、どのような条件でどのオーダーが先々の在庫を取得できるかを明確にします。

これにより、単に未来在庫を「可視化」するのではなく、「未来在庫を効率的に活用する」ビジネスプロセスそのものを創り上げることが可能です。結果として、欠品回避はもちろん、在庫運用の最適化、顧客サービス向上、ひいてはサプライチェーン全体の効率改善といった、本質的なビジネス価値がもたらされます。

BPRとの親和性

このTo-Beアプローチは、BPR(Business Process Reengineering)において極めて意義があります。BPRの目標は、単なる業務プロセスの機能改善ではなく、組織全体で価値を再創造することです。表面的な要求への対処は、往々にして既存プロセスの延命にしかなりません。しかし、To-Beアプローチは業務ルールの根源から見直し、ERPのベストプラクティスを取り込むことで、業務自体が変革されます。

これによって、ERP導入は単なるシステム更改や拡張ではなく、組織のビジネスモデルや提供価値の再定義といった、本質的な改革へと繋がるのです。

まとめ:三部構成の完結

  • 第一弾では、UDF乱用の危険性を指摘し、Fit to Standardを目指す重要性を示しました。
  • 第二弾では、As-Is要求をERP標準プロセスで検証し、不要な項目・要求を削ぎ落とす段階的アプローチを紹介しました。
  • そして第三弾では、To-Beアプローチによって、初回で示した「失敗の始まり」を克服し、単なる要求抑制・アドオン削減から一歩進み、ビジネス価値最大化という本質的な改革を可能にする方法を示しました。たかがUDFでも、その一歩が本質的課題を覆い隠し、改革を阻害する可能性があることを再認識していただければ幸いです。

この三部構成で示したプロセスと考え方により、ERP導入は「現行踏襲を減らす」から「新たな価値創出」へとフェーズアップします。すなわち、ERPを軸とした真のBPRが可能となり、組織は競争力強化と持続的な成長への道筋を得ることができるのです。

本記事と合わせて、2024-08-20公開の「FTS(Fit to Standard : 標準機能活用)を実現するための手法『要求ずらし』」をご参照いただければ、As-Is要求の整理やMoSCoW分析、ECRS手法など、より具体的な要求管理のヒントを得ることができます。これにより、To-Beアプローチによる本質的な改革とFTSの実現を、より確実なものへと導くための道筋が、いっそう明確になるでしょう。