プロジェクト立て直しシリーズ -タイムラグの解消-
「プロジェクトの立て直し」と聞くと、一見困難に思えるかもしれません。しかし、これまでに直面したERP導入プロジェクトの再構築の経験を通じて、問題を根本から解決するための方法が見えてきます。今回のシリーズでは、まず「タイムラグの解消」に焦点を当て、どのようにして連鎖的に多くの問題が解消されていくのかをご紹介します。
私がこのプロジェクトに招かれたのは、ERPが稼働してから何ヶ月か経った頃でした。ERPは稼働しているものの、現場には多大な負担がかかっており、いつ止まってもおかしくない状態でした。システムエラーも数千件が残ったままで、出荷遅延による緊急対応は日常化していました。課題は300件近くに上り、その多くがERPシステムの変更要求によって解決すると考えられていました。システムベンダーは、ユーザーが起票した変更要求をただひたすら開発すれば、この問題は解決するとの一心で対応されていました。
私は直感的に「このシステム変更要求をいくら対応しても何もよくはならない」と感じました。それは、これだけの人数と数ヶ月を要しても解決の目処が立っていないということは、まだ気づいていないところに原因があるものだからです。何れにしても現場を見るところから始めないといけません。仕入れから製造、そして出荷までのものの流れと、それに沿った情報のインプットとアウトプットを確認しました。そうするとあることに気付いたのです。
あることを確かなものにするために、全てのシステムを理解しているベンダーの方に、システム処理と時間軸の関係を図解してヒアリングしました。
結果は予想通りでした。
その工場は24時間稼働のため、夜間の製造報告は事務所の方が出社してから登録していました。登録時刻は午前9時です。一方で客先出荷は午前8時には出荷ラベルを印刷しなければなりません。ということは、午前8時ではまだ夜間の製造分はERPに登録されていないため、その分を出荷することができなかったのです。
しかし、実際には製造が完了した製品は存在するので、出荷担当者は出荷ラベルを出力するために、ERPに出荷する分を在庫調整で登録していたのです。そうなると、午前9時に製造報告した分が二重計上されてしまいます。システムの変更要求の多くが、「出荷ラベルの指示を簡素化する」、「在庫修正をし易くする」と言った、「起きている事象への対処法」だったので、これでは、いくらシステムを変更しても問題はモグラ叩きの様に出てきます。
解決策は、すでにお分かりの通り、午前9時の製造報告を午前8時の出荷引当の前にすることです。加えて、現存の入力エラーを可視化するためにエラーとなった伝票のボックスを配置しました。ボックスは、未入力用、入力済み用、そしてエラー用の三つです。また、この伝票を回収する担当者と回収時刻も明示しました。
この対策を行なった結果、まず、ほとんどのシステム変更は必要なくなりました。その後、エラー数も解消に向かい、業務は安定化に向かいました。
解決策の一つに、良く時間軸分析を用います。これは、ERP稼働前でも同じことで、処理のタイムスケジュールを表すと矛盾が見つかるのです。特に今回のケースは、ERP、製造ラインスケジューラー、部品の納入スケジューリング、出荷システムと言った四つのシステムがバラバラに存在しており、その連携方法もデータのトラフィックコントロールを難しくする設計だったのです。
しかし、この問題の真因は「タイムラグ」ではないのです。それは、製造と出荷の業務にタイムラグがあることに気付かない、「部門間の風通しの悪さ」なのです。この記事を読まれた方の多くが、「なんでこんなことも気付かないのか?」と思われたかもしれません。しかし、部門を横断して取り組まれるERP導入では、似た様なことがほぼ起きます。
やはり、最終的には人です。お互いがどの様な仕事をして、何に困っているのか。補完するには何をすべきなのかと言ったことに関心を寄せ、関わり合いを持つことが大事だと気付かされます。