ERPの習熟度管理「ILUO」
前投稿の「FTS(Fit to Standard : 標準機能活用)を実現するための手法「要求ずらし」」では、SaaSタイプのERPプロジェクトにおけるFTS手法を紹介しました。FTSの実現には、もう一つ大事なことがあります。それは、ユーザーがERPを早期に習得することです。
なぜ、ユーザーが早期にERPを習得する必要があるのかを考えてみます。プロジェクトの早い段階でユーザーはERPのトレーニングを受講します。次に、ユーザーはトレーニングで得た知識を持ってERPを実機検証し、自社ビジネスへの適合性を判断します。この時に、ユーザーがERPをオペレーションできないと、実機検証の進捗が悪くなります。ユーザーがERPを理解していないと、創意工夫もなく今の仕事と比較するだけになりERPの適合性評価を誤ることとなるのです。
従って、SaaSタイプのERPをFTSで稼働するためにはユーザーのERP習得は不可欠なことなのです。
この投稿では、ユーザーの習熟度を計画通りに進める管理手法として「ILUO」を実例を交えて説明します。また、合わせて習熟度を高めるためのアプリケーションとして、最新のマニュアル作成ソフトを紹介します。
ILUOとは、習熟度を以下の4段階に可視化する評価方法のことです。
- I(Instructed):指導を受けながら作業ができる。
- L(Learned):1人で作業できるが、指導を受ける場合がある。
- U(Understood):1人で作業できる。
- O(Optimized):作業を熟知し、指導できる。
この評価方法は、客観的で運用が容易であり、評価される側も目標が明確になるため、モチベーションの向上につながります。通常は業務の習得や改善に用いられるのですが、Bifコンサルティングでは、ERPプロジェクトにおけるユーザー習熟度で活用しています。
ILUO活用による改善事例を紹介します。
プロジェクト開始当初、プロジェクトメンバーはERP導入は初めての挑戦であり、「パッケージであるERPで自分たちの仕事が回るのか」との不安を持っていました。ERPのトレーニングを1ヶ月近く受講しましたが、理解が進まず、またどのレベルまで習得するのか目標がないまま時間だけが過ぎていきました。同様に、ITベンダーもプロジェクトメンバーの習熟が低いのではとの懸念を持っていたものの、具体的なことを示すことができないままERPの実機検証を迎えることになりました。そして、ERPの実機検証で心配していたことが現実のものとなったのです。プロジェクトメンバーがオペレーションをすることになっていましたが、ほとんど操作することができず、機能を評価するには程遠いい状況で、300以上ある評価項目には何も手をつけられませんでした。やがて、プロジェクトメンバーは、ERPプロジェクトへの意欲も薄れていったのです。
これらの改善策として、ILUOの指標を取り入れることにしました。プロジェクトメンバーの一人一人に担当する機能といつまでに評価指標のどこまでを達成するのかを可視化して、遅れが生じた場合は、習熟度の高いメンバーがフォローするなどの対策を講じる様になりました。プロジェクト終盤のエンドユーザトレーニングの頃にはプロジェクトメンバーの習熟度は、O(指導できる)に達し、ITベンダーのサポートがなくともエンドユーザトレーニングの講師を務めることができるまでに習熟しました。また、学んだことを人に説明する(インプットをアウトプット)することで、さらにレベルアップすることができたのです。
並行して、高い生産性でマニュアルを作成することができるSaaSタイプのアプリケーションを用いて、お客様自身で新しい仕事の仕方をマニュアル化したことも習熟度を上げた一因です。このマニュアル作成はお客様自身に作成してもらいます。マニュアルを作成できるということはそれだけERPを習得した証になりますし、マニュアルは業務を想定して書くものですから、新しい業務を理解しているプロジェクトメンバーが書くことが適切なのです。マニュアル作成ツールの選定も大事です。最新のマニュアル作成ツールはSaaSタイプであり、常に機能拡張がなされ、パワポやExcelより数段生産性が高いです。また、共有が容易なので、必要なマニュアルを見つけやすく、わかりやすい、そしてメンテナンスが容易であることも、お客様が作成できるということにつながります。
この改善事例では、ユーザーが常にマニュアルをもとに、「ここはやり方をこう変えたほうが良いのでないか」と言った議論を交わす様になったほどです。
ERPが本稼働すると、デイリースクラムの中で、当日発生した問題を取り上げて、エラーハンドリングし、ほとんどの問題が発生当日に解消できるレベルに習熟が達しました。プロジェクト期間中はITベンダーと伴走してきましたが、本稼働後は自走することができる様になったのです。
この事例からわかることは、ユーザーが自ら実施することは、思っている以上に得ることが多いということです。ITベンダー任せの時には、スケジュール的には進んでいる様に見えても中身が伴っていませんでした。それが、ILUOを通じて評価をしやすくし、やることを具体的にして達成可能なレベルで期限を示し、達成することで何が良くなるのかを理解する。
FTSを実現するということは、それ自体は目的ではなく、それを通じて組織が強くなるということなのだと気付かされます。