SaaSタイプのERPにおけるプロジェクト品質-顧客変容編-
これまで、2回にわたりプロジェクト品質を高める活動について説明してきました。最初に、要求管理に関しては、要求の提出方法やタイミングについて説明しました。次に、リスク管理では、As-Is要求を抑制するための手法について取り上げました。そして、この最後の記事では、顧客変容に焦点を当て、その意義と組織への影響について詳しく説明します。
顧客変容を理解するためには、まず「維持」、「変革」、そして「変容」というプロセスの順序を把握することが重要です。
お客様がSaaSタイプのERPを導入する以前の状態から、変容に至るまでの変遷を例にして、このプロセスを詳しく説明します。
当初、システム運用はITベンダーに大きく依存していました。運用しているERPシステムは、自社固有の機能を多くカスタマイズして実装していたため、バージョンアップが困難で、カスタマイズ部分に影響を及ぼす恐れからバッチの適用も難しい状況でした。加えて、ビジネス環境の変化に対応するためには、毎回外部ベンダーに見積もりを依頼し、追加開発を行う必要があり、運用コストの増大と迅速な対応の困難さが生じていました。この状況に対して、一部の人は将来的なリスクと認識していたものの、多くの人は「このままで良いのではないか」という現状”維持”バイアスを持っていました。
昨今のデジタルトランスフォーメーション(DX)の流れを受け、ビジネス環境の変化に追随し続ける業界特化型機能を強化するSaaSタイプのERPの導入によって、組織の“変革”を決意しました。このERP導入プロジェクトを通じて、チームメンバー全員がERPのコンセプトとその進化する機能を深く理解しました。また、業務の効率化と柔軟性を高めるためにノーコード開発の技術も習得しました。この変革により、業務担当者の意識や行動が大きく変わり、組織全体で新しい働き方や思考が促進されるようになりました。
ERPが稼働し始めた後、組織はビジネス環境の変化に対して柔軟かつ迅速に対応できるようになりました。この新しいシステムの導入とノーコード開発の技術習得により、従来のやり方から脱却し、アジャイルなデリバリーが可能な組織へと“変容”を遂げました。この変容は、組織全体の思考と行動の変化を促し、ビジネス環境の変化に対してより適応性の高い姿勢を実現しました。
理想的な変遷を説明しましたが、これを実現するために重要なのは、プロジェクトメンバーの選出と、メンバーへのサポートおよび関与、そして、変化への取り組みです。
前述のように、人々はしばしば現状維持バイアスを持っています。したがって、単に業務をシステムに合わせるというFTP方針を伝えるだけでは、総論賛成各論反対の状況に陥りがちです。これを避けるためには、以下のステップを踏み、要求管理とリスク管理を適切に適用する必要があります。
ステップ1:計画(変化の管理)変化を効果的に管理し、参加を動機づけ、進捗を監視します。
クリアな目標設定と期待の明確化を行い、変化に対する理解と準備を促進します。
ステップ2:エンゲージメント(影響と招待)組織の全レベルで主要なユーザーグループを巻き込み、参加を促します。
コミュニケーション内容と方法を対象者に適切に合わせ、影響力を最大化します。
ステップ3:トレーニング(体験)プロジェクトメンバーと業務ユーザーが実機検証を通じて、継続的な学習をサポートします。
クイックウィンを通じて、変化の利点を実感できるようにします。
ステップ4:コミュニケーション(知らせる)経営トップからの明確で説得力のあるコミュニケーションを通じて、関係者に情報を提供します。
可視性の高いコミュニケーションで変化の必要性と利点を伝え、組織全体の支持を得ます。
特に、業界に特化したSaaSタイプのERPの場合、トレーニング段階で業界固有のデータがプリセットされているので、机上の学習ではなく、実機を用いた検証を通じて迅速に成果を得ることができます。このアプローチは、プロジェクトメンバーの習熟度を高めるだけでなく、変革の意義、実現性、持続可能性についての理解を深める助けとなります。
この記事では、プロジェクト品質を高めるための重要な要素として「要求管理」「リスク管理」、そして特に「顧客変容」に焦点を当てました。これらの要素を効果的に管理することは、プロジェクトの成功にとって不可欠です。
次回のエピソードでは、これらの要素を確実に実行するために必要な、プロジェクトメンバーの適切な選定について詳しく掘り下げる予定です。プロジェクトメンバーの選定は、目標達成と品質維持のために重要な役割を果たします。そこで、どのようにして最適なメンバーを選ぶか、具体的な方法と考慮点を次回詳しく説明します。