要件定義と運動会の玉入れ
要件定義と運動会の玉入れは多くの共通点があると思います。運動会の玉入れを例に挙げると、玉は要件、籠はプロジェクトの目的に相当します。競技者は、玉入れ開始前に持てるだけの玉を持っています。笛が鳴ると、競技者たちは玉を一斉に投げ始めますが、籠に入れることを意識している競技者は少なく、ただとにかく玉を投げます。多くの玉は籠に入らず、終了の笛が鳴っても投げ続ける競技者もいます。結局、地面にはまだたくさんの玉が転がっていることになります。
ERP導入においても、「システムに合わせて業務を見直す」とありますが、実務者は新しいシステムでの作業のやり方を熟知しているわけではありません。そのため、要件を出せと言っても、現状のシステムでできることを列挙することになるでしょう。これは、すでに「現状のシステムと同じ要件(玉)を持っている」ということと類似しています。
「笛が鳴ると、競技者たちは玉を一斉に投げ始めます」という部分は、限られた期間内に要件を出さなければ、後で要件を受け付けてもらえない可能性があるという不安から生じます。また、「籠に入れることを意識している競技者は少なく」という部分は、要件を伝えたことで、あとは実務者たちに任せるという過信からくるものです。
「多くの玉は籠に入らず」というのは、プロジェクトの目的と乖離していた場合でも、それが現状の業務を円滑に進めるために必要であることがあるため、そうなることがあります。そして、「終了の笛が鳴っても投げ続ける競技者もいます」という部分は、後で気付くことがあるため、期限を過ぎたところでも追加要件を受け付けてもらわなければ困るという状況が生じることがあります。最後に、「地面にはまだたくさんの玉が転がっている」というのは、新しいシステムを使ってみて初めてわかることがあるため、現状の業務には表面化していない要件が多く存在することが考えられます。
これは極端な例えかもしれませんが、具体的なイメージがわかりやすく伝わると思います。失敗プロジェクトの例を示しています。
では、どうすればERPの機能をフル活用した要件定義ができるのか、言い換えると、どうすれば籠に入る球だけを投げてもらうようになるのか、ということです。私の経験では、うまくいくプロジェクト、つまり開発要件が限りなく少ないプロジェクトには、いくつか共通した特徴があります。まずは人選です。業務を横断して詳しい方、さらに人望の厚い方がリーダーに立つプロジェクトは上手くいきます。そのような人は少ないのですが、業務を網羅していれば人数は少なくても十分です。むしろ、少ない方が効率的に作業が進むこともあります。その方々が、ERPのコンセプトを深く理解した上で、自社のデータでERPのプロセスをとことん動かすのです。そして、新しいシステムと業務の関係を理解したら、次に全員が参加するようにしましょう。若手社員も積極的に参加すると、プロジェクトを成功に導くためのリーダーシップを発揮するようになります。プロジェクトは紆余曲折がありますが、稼働後は若手が中心となって新しいシステムを定着させるでしょう。実際に同じプロジェクトなどはありませんから、このようにすれば良いということはありませんが、学ぶ、実践する、人を巻き込むことが成功の共通項だと思います。