なぜWBSは放置されるのか 〜その原因と対策〜
ERP導入プロジェクトなど、大規模で複雑なプロジェクトにおいて、WBS(Work Breakdown Structure)は進捗状況を把握し、担当者やタスクを管理するために必須のツールです。しかし実際には、多くのプロジェクトでWBSが正しく運用されず、いつまで経っても定まらない、あるいは放置されてしまっているという声を耳にします。本記事では、なぜWBSが放置されるのか、その真因を探り、WBSを安定的に運営し、プロジェクトを健全に進めるための施策を解説していきます。
WBSが放置される3つの原因
- WBSのメンテナンスが面倒である:
ERP導入プロジェクトのような大規模プロジェクトでは、タスク数が最終的に5,000件近くにのぼることもあります。とくにスプレッドシートでWBSを作成している場合、大量のタスク追加や日程調整、それを数十人のメンバーと共有する作業など、膨大な手間がかかります。結果として、更新やメンテナンスがおろそかになり、WBSが放置されることとなるのです。 - 詳細スケジュールはWBS以外で管理している:
本来であればワンファクト・ワンプレイス(一元管理)が理想ですが、スプレッドシートでの運用は煩雑になりがちなため、チームごとに別のスプレッドシートでタスクを作業レベルまで詳細にして進捗を管理するケースが散見されます。その結果、本体のWBSと各チームのスケジュールが不整合を起こし、結局どちらも正確に更新されないままになってしまいます。 - プロジェクトメンバーがWBSの価値を認識していない:
メンバーからすれば、自分の担当タスクさえ明確ならば、わざわざWBSで全体を把握するメリットを感じられないこともあるでしょう。また、会社への作業報告や請求のための作業時間報告など、既に複数の報告手段が存在していると、「WBSへの進捗報告は二度手間」であり、使い続けるモチベーションが生まれにくいのです。
WBSの役割と運用メリット
本来、WBSの役割はなんなのでしょうか?
- 進捗管理:
WBSを正しく運用できれば、クリティカルパス上の担当者のタスク進捗を正確に把握できます。これによって、プロジェクトマネージャーは状況をリアルタイムに把握し、必要に応じて適切な対策を取ることが可能になります。 - 担当者の負荷状況の把握:
担当者ごとのタスク状況を可視化することで、過度なアサインや遅延リスクにいち早く気づけます。これにより、遅延を防ぐためのリソース再配分やサポートが的確に行えるようになります。 - タスク間の関係性の可視化:
課題をタスク化することで、「この課題に対処しないと次の作業に進めない」といった依存関係が明確になります。タスクの相互関係を意識することで、プロジェクト全体のスムーズな流れを確保できます。 - 正確な報告:
週次や月次の報告に必要な情報は、WBS上で完結できるようにします。具体的には、WBSの各タスク画面にTeamsなどのチャット機能と同等のやり取りを集約することで、プロジェクトマネージャーが詳細な情報を一元的に把握できるようになります。さらに、そのやり取りの履歴はAIによって自動的に要約されるため、レポート作成の負荷が大幅に軽減し、報告の精度も大きく向上します。 - 統計データの活用:
WBSで作業時間を記録・管理すれば、そのデータはプロジェクトの振り返りや、将来のプロジェクト見積に大きく役立ちます。プロジェクトレビューや、将来の類似プロジェクトのコスト・工数見積に活用できるでしょう。
こうしたメリットを得られるWBSは、プロジェクトの見積精度や品質向上に大きく寄与します。ゆえに、どのようなプロジェクトであれWBSは不可欠と言えるのです。
WBSを正確に運用するための施策
これまでのプロジェクト経験を踏まえると、WBSを正確に運用するには、以下のような施策が特に効果的です。
- WBSテンプレートの活用と適切なメンテナンス:
過去のプロジェクトで使われたWBSをテンプレート化し、それをベースにメンテナンスや修正を行うことで、ゼロから作り始めるよりも格段に効率が上がります。タスク粒度や分類の標準化もあわせて実施すると、保守・運用コストを下げられます。 - プロジェクト運営に適したワークマネジメントツールの活用:
スプレッドシートでのWBS運営は、今すぐにでも停止することを強く推奨します。タスク数の増加に伴い、メンテナンスが煩雑になりやすいため、タスク管理やガントチャート連携が容易なツールに切り替えたほうが、はるかに効率的です。メンバーが手軽にタスクを更新・報告できる環境を整えることで、WBSは“生きた情報源”として機能し、プロジェクトの進捗管理が格段にスムーズになります。
※ツールの詳細については「ERPを初めて導入される方でも安心のプロジェクト運営をWrikeで実現」をご参照ください。 - WBS運用ルールの策定と徹底:
「会議やセッションとWBSタスクの関係」や「ステータスの更新や作業時間報告」などの運用ルールを明文化し、プロジェクトの初期段階からメンバーに周知徹底します。定期的な振り返り・レビューを実施し、ルールの改善や補足を行うことも大切です。 - メンバーが自然と使う仕組みづくり:
最も重要なのは、プロジェクトメンバー全員がWBSの使い方を理解し、“使わざるを得ない仕組み”を構築することです。あるプロジェクトでは、誰もがWBSをベースに仕事をする仕組みを構築しました。以下のような工夫が有効です。- 毎日はマイタスクダッシュボードから始まる
朝いちばんにマイタスクダッシュボードを確認するところから仕事を始めます。そこには「今日行うこと」や「今週の作業予定」、承認が必要なタスクや遅延タスクなどが分かりやすく表示されるので、別途作業リストを用意する必要はありません。 - 会議招集との連携
Outlookなどのスケジュールツールでセッションをインバイトするときに、WBSのタスクリンクを添付します。担当者はリンクから該当タスクを開き、議事録やファイルの添付を行うことで、自然とWBSの更新を行う仕組みを作ります。 - 作業時間報告の効率化
タスクを終えたタイミングで作業時間を即時報告するようにすれば、後から思い出し報告する負担を減らせるうえに、正確なデータを取得できます。こうした実績データは、将来の見積やレビュー時にも役立つため、メンバー自身が活用メリットを実感しやすくなります。
- 毎日はマイタスクダッシュボードから始まる
このように、日々の業務フローにWBSを組み込み、メンバーのルーティンワークにしてしまうことが肝心です。そうすることで、WBSはプロジェクトにしっかり根付き、プロジェクトステータス報告から作業検収に至るまで、あらゆる場面で活用範囲を広げていけるでしょう。
おわりに
WBSが放置される背景には、「メンテナンスの煩雑さ」「ツールの不適合」「メンバーの理解不足」など、さまざまな要因が存在します。しかし、WBSの本来の役割とメリットを理解し、運用ルールやツールの導入、そして“自然に使う仕組み”を整えれば、プロジェクトの進捗管理が格段にスムーズになり、将来のプロジェクトにも活きる貴重なデータを蓄積できます。
ぜひ、今関わっているプロジェクトでもWBSの運用を見直し、チーム全体の生産性と品質を高めてみてください。
次回予告
今回の記事でWBSの配置とその背景について深く掘り下げましたが、プロジェクトが遅延し、再計画が求められる状況への具体的な対処法については、3月27日公開予定の『リスケジューリング・繰り返される再計画とその対処法』の記事で詳しく解説しています。プロジェクト全体の管理改善に役立つ実践的な手法がまとめられているので、ぜひそちらもご覧下さい。